夏の砦

夏の砦 (文春文庫)

夏の砦 (文春文庫)

北欧の都会にタピスリの研究に訪れ、ある日、忽然と消息を絶つ支倉冬子。荒涼たる孤独の中、日本と西欧、過去と現在、過酷な現実と美的世界を行きつ戻りつ、冬子はどのようにして生きる意味と力をつかんでいったのか…。

織物、幼い頃の記憶の断片、夢現の世界観・・・。最終章では、じわりときた。
小学校から中学校にかけて、意識の面で成長したくないと思っていたことがあった。自分を客観的に見ることを覚えていく時期だったんだと思う。それまで、見たものそのままが自分の意識だったのが、なにかフィルターを通してから自分の感覚になるよう変わってきた。体験と意識の間に「解釈」が加わった、というのかな。壁一枚隔てた外側から見ているようなかんじが、すごく嫌だったのを覚えている。「知覚」っていうんだね。知識武装するほど、年々その壁は厚くなる。
そんなふうに、子供のころと今の「感覚の違い」の感触が残っていて、『夏の砦』に描かれていたのは正にそれだった。深い共感とはこのことだね。
夏から読み進められずに引きずってきたけれど、ゆっくり共に再生して、ようやく読み終えた。このテンポで正解。本は読むべきときに読むのが一番の幸せだよね。